【取材】漫画で研修ってアリ?受講者がハマるコミックラーニングとは

パーソルグループの新規事業創出を担うパーソルイノベーション株式会社。
同社のコミック教材を活用した研修サービス『コミックラーニング』が、ユーザー数110万人を突破し、いま注目を集めています。
コミックラーニング:https://lp.comiclearning.jp/top
今回は同サービスを手掛ける事業責任者・仙波敦子氏に、漫画を活用したビジネス研修の可能性や事例、そして今後の展望について詳しく伺いました。

仙波 敦子氏
KADOKAWAグループにて 300 点以上の企画 ・ 編集及び事業開発に携わった後 、 通信制高校 N高等学校通学コースの事業責任者として新規開校に従事 。
その後 、 教育メディアの業界最大級へのグロースや慶應義塾大学 SFC 研究所での研究開発などを経て 、 AI ベンチャーの経営企画部部長として組織開発 ・ IPO 準備等に従事後 、 現職 。 経営学修士(MBA)。
『コミックラーニング』誕生の背景
ー本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、近年の企業研修を取り巻く課題からお聞かせください。特にリモート化、多様な働き方が広がる中で、従来の研修形式にどんな限界があるとお考えでしょうか?
仙波氏:こちらこそ、よろしくお願いします。
従来の研修は、パソコンを使ったEラーニング受講や一方向的な座学が中心です。
そのため、特に若手社員や現場ワーカーなど、多忙な環境ではたらく方々にとっては「学びを業務に結びつける」ことが難しくなりがちです。
また、そもそも長いテキストや厚い教材本に抵抗感がある方も少なくありません。
「学びは大事と分かっていても、取り組むハードルが高い」――これが現代の研修課題です。
リモートワークやノンデスクワーカーの増加も一因ですね。
トラックドライバーの方や、物流・建設など現場で働く方々が、パソコンに向かう時間を確保するのは難しい。こうした実態に合った新しい学びのかたちが求められています。
ーそうした背景から生まれたのが「コミックラーニング」なんですね。
改めて、どのようなサービスなのか詳しく教えていただけますか。
仙波氏:「コミックラーニング」は、その名の通り漫画を活用した研修教材を提供するサービスです。1コンテンツは約18ページほどで、スマートフォンでも短時間(約10分)で読めるので、パソコンも不要です。
研修テーマはコンプライアンスやハラスメント対策、心理的安全性の構築、職場環境改善など多岐にわたります。
なぜ漫画かというと、「読むことへの心理的ハードル」を下げられるからです。
ビジネス書や長い文章を前にすると構えてしまう方でも、ストーリー仕立ての漫画ならサッと入り込める。
キャラクター同士の対話や表情から、受講者は「あ、これって職場で起こりそう」「自分にも思い当たる節がある」と直感的に理解できるんです。

参照:制作実績:日本軽金属ホールディングス株式会社様 コミックの活用で、より効果的なコンプライアンス研修を実現|コミックラーニング
ビジネスコミックに着目したきっかけ
ー漫画を導入するにあたって、何かきっかけとなるエピソードがあったのでしょうか?
仙波氏:あるベンチャー企業で組織開発に携わった際、若い社員(平均年齢26歳ほど)にビジネス書を紹介しても、「読む習慣がない」「ニュース記事は読むのがしんどい」という声が目立ちました。中には学び=辛い受験勉強の印象が強く、自分の勉強スタイルに自信が持てず、文字情報に苦手意識を感じる方もいました。
そんな中、「じゃあビジネスコミックならどうだろう?」と提案してみたんです。
結果、驚くほどスムーズに受け入れられて「これなら読めるし、わかりやすい!」と好評でした。
ビジネスコミック自体、市場は伸びていたし、昔から『ちびまる子ちゃんの万葉集』のように知識を漫画で学ぶ素材は存在していました。その潜在ニーズが顕在化した瞬間でしたね。
ーたしかに、歴史漫画など知識を漫画で学んだ経験ありますね。
潜在ニーズが高かった中、なぜ今まで「漫画研修」が主流にならなかったのでしょうか?
仙波氏:いくつか理由があります。まず、出版社側が企業向けビジネスに対してあまり積極的でなかった点。
加えて、従来の研修業界が独自に漫画教材を作っても、学習コンテンツとしては堅苦しい、エンタメとしては面白くない、という中途半端なものになりがちでした。要は、エンタメと学びの両立が難しかったんです。
一方、「コミックラーニング」では、出版社出身の編集者や、エンタメ創出に強いプロフェッショナルとタッグを組み、質の高いビジネスコミックを制作しています。KADOKAWAグループの漫画統括経験者にアドバイザーとして入っていただき、クオリティや面白さ、再現性の高さを追求しました。その結果、「学べる×面白い」を両立できるコンテンツ開発の基盤を築けたのです。

画像出典:コミックラーニング TOPページ
『コミックラーニング』導入企業の声
ーサービスをリリースしてからの反響はいかがでしょう?受講者と研修担当者、双方のフィードバックを教えてください。
仙波氏:受講者からの評価は非常に高く、3,000名以上の企業にご提供した際も、99.6%の方がポジティブな反応を示していました。
「これなら続けたい」「次は別のテーマの漫画も読んでみたい」という学習意欲が上がった感想が多く、非常に励みになります。
一方で、研修担当者の方々は最初、戸惑いや半信半疑な気持ちを抱くことも多いです。
「本当に漫画で効果が出るのか?」という疑問ですね。
しかし、実際に導入した企業事例やデータをお見せすると、「なるほど、これならうちの社員もやる気を出しそうだ」と納得してくださいます。
とくに物流・製造・建設業界では、ノンデスクワーカーの方がスマホで短時間に学べる点が大好評でした。
日本通運様、関西丸和ロジスティクス様、マルハニチロ物流様などでの導入実績(PR TIMES参照)もあり、行動変容やトラブル件数の改善につながっています。

日本通運様事例(画像参照):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000200.000071591.html
関西丸和ロジスティクス様事例:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000271.000071591.html
マルハニチロ物流様事例:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000203.000071591.html
ーコンプライアンスやハラスメント研修が多いと伺いましたが、その理由や効果はどのような点にありますか?
仙波氏:コンプライアンスやハラスメント関連は、多くの企業が義務的に取り組む分野です。また、年々事業リスクも高まっており、注力分野でもあります。
しかし、内容がどうしても堅くなりがちで、受講者は「またこの話か…」とスルーしてしまう傾向もあります。そこを漫画でアプローチすることで、「日常的なやり取りの中で、実は問題行為が潜んでいる」ことに気づいてもらいやすくなります。
ハラスメントは無自覚に行われることが多く、言った本人は悪気がなくても、受け手は深く傷ついている場合がある。
その微妙な表情の変化や雰囲気を、漫画表現は直感的に伝えてくれます。これによって「こんな風に思われているかも」「この発言は問題だ」と気づきやすくなり、結果的に職場環境の改善につながります。
研修漫画づくりのポイントは?
ー漫画化するにあたり、カリキュラム構築やキャラクター設計はどのように行っているのでしょう?
仙波氏:まず、お客様へのヒアリングからスタートします。「どんな課題を解決したいのか」「どのような職場環境か」「どんな属性の従業員が多いか」など、細かくニーズを吸い上げた上で、課題解決に直結するストーリーを練り上げます。
キャラクター設定も重要です。主人公の悩みや立場に受講者が共感できないと「自分ごと化」できません。ビジネスの現場感を出す工夫も必要です。
①ネーム

②作画

画像出典:制作実績:株式会社川島コーポレーション様 コンプライアンスのような概念的な内容こそ動画よりコミックでの学習が最適!|コミックラーニング
ー形式面で、モノクロ漫画にしている点もユニークですね。なぜカラーではなくモノクロにこだわるのでしょうか?
仙波氏:モノクロの方が、受講者の想像力を刺激するからです。余白があると、人は自然と自分の経験や感覚を補完しようとします。色がない分、「このキャラクターはこんなトーンで話しているのかな」と想像が膨らみ、物語に没入しやすくなるんです。
また、あまり情報過多にせず、「考える余地」を残すことで、学びが受講者自身の脳内で再解釈される。それによって印象が強く残り、行動変容につながりやすくなります。
ー最近はAI技術が普及しており、コンテンツ制作にも利用できそうですが、あえて人間がストーリーを作る理由は何でしょうか?
仙波氏:私たちは「人間の感情を動かすには、人間ならではの想定外の展開、つまり“驚き”が必要」だと考えています。
AIでプロットを試作したこともありますが、どうしても「想定内」のストーリーに落ち着きやすい。
人が「ここで驚かせてやろう」と意図的にエピソードを組み込むことで、読者は感情を揺さぶられ「なるほど!」と学びを深めるんです。
さらに、パーソルグループには人材・組織開発の豊富な知見があります。
HR分野のノウハウを、出版編集のプロフェッショナルや漫画制作のエキスパートと掛け合わせることで、通り一遍の研修教材にはない深い教育効果を出せています。AIはサポートツールとして使うことはあっても、最後は人間の感性が必要だと思います。
今後の展開について
ー今後の展開としては、国内だけでなく海外への進出も視野に入れているそうですね。その背景をお聞かせください。
仙波氏:はい。日本のコンテンツ制作力は世界的にも評価されていますし、漫画文化は海外にもファンが多いです。
実際に夏頃から海外調査を行っており、アメリカ市場などでも「面白い研修という発想はいいね」という感触を得ています。
職場で求められるコミュニケーションやコンプライアンス遵守は、国や文化が変わっても一定の共通項があります。
ストレスなく学べるコンテンツとして、漫画研修はグローバルでも受け入れられる可能性があります。日本の強みを生かし、「勉強=つらい」という固定観念を覆すことで、世界の学びのスタイルを少しずつ変えていく挑戦をしたいですね。
ー最後に、読者へのメッセージをお願いします。特に「研修=退屈」と思っている方や、「今さら学び直しは抵抗がある」という方に、どんな言葉をかけたいですか?
仙波氏:学びは本来、楽しく、自己肯定感を高める行為であるはずです。学校や受験といった過去の経験から、「勉強=修行」というイメージを引きずっている方も少なくありません。
ですが、漫画での学びはそのハードルを下げ、「あ、学ぶってこんなに気軽でいいんだ」「これなら続けられそう」と思えるきっかけになり得ます。
「コミックラーニング」を通じて、学習へのストレスを減らし、自分の成長をポジティブに感じられる世界を実現したいと考えています。
ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。漫画を活用した研修というアプローチが、企業の学習スタイルや「研修=堅苦しい」というイメージを大きく変えていく可能性を強く感じました。今後のさらなる展開も楽しみにしています。
仙波氏:こちらこそ、ありがとうございました。引き続き、エンタメと学びを掛け合わせることで、より多くの方が気軽に自分の成長を実感できるような研修の形を追求していきたいと思います。