生成AIの登場によって、事務的で面倒くさい仕事から解放されると思いきや、クリエイティブな仕事が取って替られる時代が到来している。
簡易なロゴデザインだけでなく、最近ではWebデザインやアプリのUIUXデザインも生成できるようだ。
AIが台頭する時代において、これからデザイナーを目指すのは無謀なのだろうか。
また、AIに取って替られるデザイナー、そうでないデザイナーの違いは何なのか。
今回は、そんな疑問を解消するべく、株式会社Round-L代表取締役の山本社長にお話を伺った。
山本 佳(Kai Yamamoto)氏:Xアカウント
株式会社Round-L代表取締役社長。
非美大卒・未経験からデザイナーとしてのキャリアをスタート。UI/UXデザインを強みとするデザイン会社を経営する傍ら、トヨタグループにてUIUXデザイナーとしても活躍している。
未経験からデザイナーになる道筋とは
― デザイナーを目指したきっかけは?
山本氏:
私は元々ファッションデザインを学んでいました。
4年間の専門教育を受けた後、新卒でWebデザイナーとしてのキャリアをスタートしました。
その後、UI/UXデザインやコンサルティング、起業を経て、現在に至ります。
デザインという枠組みでは一貫していますが、ファッションからWeb、さらにUI/UXと、異なる分野を渡り歩いてきた形ですね。
― デザイン未経験者が最初にするべきことは?
山本氏:
まずは、ポートフォリオを作ることが大切です。
私が新卒でデザイン業界に入ったときも、たくさんの書籍を購入して、それらを参考に独学でポートフォリオを作成しました。
当時は、美大や専門学校で学んだわけではなく、独学で基礎を学び、20〜30ページ程度のポートフォリオを企業に提出しました。
ポートフォリオの内容は、Webデザインに限らず、ロゴやグラフィック表現など幅広く入れていました。
「この人は何でも挑戦してみようとしている」と感じてもらうことを意識していましたね。
― 専門学校や美大に通うべきでしょうか?
山本氏:
これはよく聞かれる質問ですが、結論から言えば「どちらでも問題ない」です。専門学校や美大に行くことで、同じ目標を持つライバルと切磋琢磨できる環境が得られるのは確かです。ただし、独学でも十分にデザイナーを目指すことは可能です。
独学の場合、ネットを活用してインプットを積み重ねることが重要です。
現在は、YouTubeやオンラインスクールで多くの知識を得ることができます。私自身も、独学でAdobeソフトの基本操作を学び、Webサイトのデザインを作った経験があります。
「熱意」をどう形にするか?採用されるためのポイント
― 未経験者が「やる気」を効果的にアピールする方法は?
山本氏:
熱意だけでは採用には結びつきにくいのも事実です。
企業側に「なぜこの人を採用すべきか」を納得してもらうには、次の2つのポイントが重要だと考えています。
1. ライバルを知る
ライバルがどのようなスキルを持ち、どのようなポートフォリオを作っているかを知ることは、自分の差別化戦略を立てるうえで非常に重要です。
たとえば、ビジネス視点を持つことで、他のデザイナーにはできないコンサルティング的なアプローチを提案できます。
2. 自分のストーリーを語る
デザインの技術だけでなく、なぜデザイナーになりたいのか、自分の背景やモチベーションを語ることが大切です。
たとえば、「独学でここまで学び、これだけのポートフォリオを作りました」という熱意を具体的に伝えることで、企業に強い印象を与えることができます。
AIの進化がデザイナーに求める新しいスキル
― 生成AIが登場して以降、デザインの現場にはどのような変化がありましたか?
山本氏:
ここ数年で、生成AIが高品質なイラストやUXデザインを簡単に作れるようになりました。
これにより、デザイン業界での作業効率は大幅に向上しています。
一方で、単純な作業や表面的なアウトプットだけを続けていると、AIに取って代わられるリスクも増えてきています。
例えば、以前はプロのデザイナーしか作れなかったようなデザインが、今では非デザイナーの方でもツールを使いこなせば可能になっています。
特にフィグマやAdobeのソフトウェアなどは、学べば誰でも基本的なスキルを習得できる時代です。
生成AI時代に生き残るデザイナーになるためには
― 生成AIの進化により、「デザイナー不要論」も一部で囁かれています。この点についてどうお考えですか?
山本氏s:
AIの進化により、「作業レイヤー」に属するタスクは確かに代替される可能性があります。
たとえば、単純なレイアウトやベクターデザインなど、ルールに基づいた作業は、AIが効率的にこなせるようになっています。
しかし、デザインの本質は「なぜこのデザインが必要なのか」を考え抜くことにあります。
この部分は、AIには再現が難しい領域です。
たとえば、クライアントの要望やターゲットユーザーの感情に寄り添い、それをデザインに落とし込む力は、依然として人間にしかできない仕事です。
つまり、「表面的なアウトプットを作る能力」ではなく、「そのデザインの意図や背景を説明し、納得させる力」がこれからのデザイナーに求められると感じています。
― AIに取って代わられないデザイナーになるためには?
山本氏:
これからのデザイナーには、以下の3つのスキルセットが重要だと考えています。
1. 自分の感覚を信じる力
生成AIや他人の意見をそのまま受け入れるのではなく、自分の感覚を信じることが重要です。
たとえば、AIが生成したデザインに「何か違う」と感じたら、その違和感を言語化して説明する力が求められます。
2. 人間の感情を理解する力
デザインは「人」を対象としたものです。
クライアントやユーザーの背景を深く理解し、感情に訴えるデザインを作ることが、AIにはできないデザイナーの役割です。
3. 多様なカルチャーへの好奇心
自分の趣味や興味を深く掘り下げ、それをデザインに反映させることが差別化につながります。
たとえば、私の場合はファッションや音楽から多くのインスピレーションを得ています。
具体的なスキルセットはどう変化していくのか?
― Adobe PhotoshopやIllustratorなどのスキルは、今後も必要とされるのでしょうか?
山本氏:
はい、これらのスキルは引き続き必要になりますが、あくまで最低ラインです。
ツールの操作だけでは差別化が難しい時代になっています。デザインの考え方や、なぜそのデザインを選択したのかを説明できる能力が、これからのデザイナーに求められます。
また、生成AIをうまく活用するスキルも重要です。
AIを活用しつつ、それをどう人間の感性と融合させるかが、プロとしての価値を高めるポイントになると考えています。
自分らしいデザインの価値を見つける
― 自分の感覚を信じ、感情を理解するために、どのようなアプローチをしていますか?
山本氏:
デザインの制作過程では、意識的に自分の感覚を大切にしています。
例えば、Pinterestや生成AIが提供するトレンドに流されすぎないよう注意しています。
そのためには、自分が本当に良いと感じるデザインや、クライアントの背景を深く理解することを心がけています。
また、自分の趣味や興味を通じて、新しいインプットを得るようにしています。
私の場合はファッションや音楽など、多様なカルチャーからインスピレーションを受けています。
これが結果的に、自分だけのデザインスタイルを形成する原動力となっています。
これからのデザイナーに向けたメッセージ
― 最後に、これからデザイナーを目指す人たちに向けてアドバイスをお願いします。
山本氏:
生成AI時代において、デザインスキルだけでは不十分です。
重要なのは、自分自身の価値観を信じ、人間的な感情を理解し、多様なカルチャーに触れることです。
特に、好きなことに没頭することで、自分らしいデザインのスタイルが形成されていきます。
この時代は、誰でも学べる環境が整っています。一方で、他のデザイナーとの差別化がますます難しくなっているのも事実です。その中で、自分らしさを武器に、常に学び続ける姿勢が求められています。