【取材】会計士はAIに取って代わられるのか?──会計士出身の起業家が語る「飲食業界DX」|リディッシュ株式会社・松隈氏インタビュー

1. はじめに
近年、ChatGPTをはじめとした生成AIの台頭により、「会計士の仕事はAIに取って代わられるのではないか?」という議論が活発化しています。データ入力や処理の多くが自動化される一方で、人間ならではの判断やコミュニケーション力がますます重要になると言われる今、会計士としてどう行動すべきか悩む方も少なくないでしょう。
そんな時代背景のなか、会計士から投資ファンドを経て、現在はリディッシュ株式会社を起業し、「飲食業界DX」に挑むのが松隈(まつくま)氏。AIの進化は決して“会計士の終焉”を意味しないという彼の言葉には、自身のキャリアや投資ファンドでの経験を通じて培った哲学がありました。
今回は「会計士はAIに取って代わられるのか?」という切り口から、飲食店を豊かにするためのDX施策、そして“AI時代における新しい働き方”について、松隈氏にたっぷりと語っていただきます。

リディッシュ株式会社代表取締役 CEO 松隈 剛(まつくま たけし)氏。
福岡県出身。慶應義塾大学 理工学部管理工学科卒業後、公認会計士資格を取得。トーマツで監査業務を経験した後、PwCにてM&Aアドバイザリーを担当。その後、投資会社SPARX Groupに入社し、ファンドマネージャーとして上場企業の経営支援に携わる。
2018年、リディッシュ株式会社(https://redish.jp/)を創業。飲食店向けに税務・財務支援のREDISH税務、集客支援のREDISH集客、融資支援のREDISH開業など、多角的な経営サポートを提供している。
2. プロフィール:会計士から投資ファンド、そして起業へ
——まずは松隈さんの経歴を簡単に教えていただけますか?
松隈氏:
私は福岡県出身で、現在は東京都に住んでいます。大学は慶應義塾大学の理工学部管理工学科を卒業しました。当時から起業願望が強く、ITで独立する選択肢も今ほどメジャーではなかったので、「資格を取れば独立できるんじゃないか」と考えて公認会計士を目指したんです。
きっかけは、車の修理代や保険金で思わぬ形で100万円を得たこと。そのうち80万円を会計士の受験予備校に投資し、1年半かけて無事に資格を取得しました。卒業後は監査法人トーマツで監査業務に携わり、「社会的意義のある仕事だな」と感じながらも、もっと“攻める仕事”がしたくてPwCに転職してM&Aを経験。
そこでは「仕事は与えられるものではなく、自分で取りに行くもの」という姿勢を学ぶと同時に、ITバブルの可能性を肌で感じました。
その後、IT企業へ行くつもりで転職活動をする中、会計士の先輩がCFOを務める投資会社SPARXに出会い、社長の阿部さんと働きたいという強い思いから入社を決めました。当初は上場準備を担当していましたが、投資部門に移り、ファンドマネージャーとして多くの上場企業の経営陣と接する機会を得ました。
とくに当時のSPARXの株主や取締役にはトヨタ会長の豊田章夫氏やユニクロの柳井氏、また投資先で密に接触があった日本電産の永守氏など、そうそうたる著名経営者が名を連ねていて、彼らの経営哲学や大きなビジョンに触れられたのは大きな学びでした。「事業には明確なビジョン・ミッション・バリューが必要」という考え方は、今のリディッシュの経営にも強く影響しています。
3. AI技術が進化する中で、「会計士」という職業の未来はどう変わる?
——本題の「会計士はAIに取って代わられるのか?」という点について、松隈さんはどのように考えていますか?
松隈氏:
私自身、「AIに取って代わられる部分」は確実にあると考えています。とくに会計データの入力や定型のチェックなどはどんどん自動化されていくでしょう。
一方で、その先にある「数字の意味を読み取り、人間同士のコミュニケーションを通じて経営判断を下す」という業務は、AIだけではまかない切れない。
会計士や税理士が持つ強みは、数字を正しく扱うスキルはもちろん、経営者や従業員と対話しながら問題解決へ導く力です。
AIがどれだけ高性能になっても、人間同士の信頼関係を築くプロセスまでは代替できない。むしろ定型業務がAIに任せられるおかげで、会計士は“より価値の高い領域”に集中できるようになるはずです。
ですから「会計士はAIにとって代わられる」と悲観するのではなく、「AIを活用して、自分の専門性を一段上のレベルで発揮できるようになる」という捉え方のほうが正しいと考えています。一方で、AIという歴史上かつてないレベルのツールを、どれだけ使いこなせるかどうかで会計士が発揮できる価値の可能性は大きく変わります。 専門性にAIを組み合わせる取組に関しては先行者利益が相当大きくなると考えています。
4. 飲食業界DXへの挑戦:会計士出身の松隈氏が見た「飲食店の課題」
——ところで、会計士としてキャリアを積んできた松隈さんが「飲食業界のDX」に注力しているのはなぜでしょうか?
松隈氏:
飲食店って本当に大変な業界なんです。
人手不足やコスト高、天候や景気変動のリスク、そして現場が忙しすぎて“経営を科学する”余裕がない。
せっかくおいしい料理を出していても、採算が合わないまま閉店してしまうケースは珍しくありません。
私はファンドマネージャー時代に、投資先として多数の企業の経営を分析してきました。
その経験から飲食業界は他業界に比べて経営への取組が非常に遅れていることが明らかでした。 一方で本質的な価値は非常に高いので、「飲食店経営をきちんと数値化し、分析してサポートすれば、まだまだ利益を上げられる余地がある」と思ったんです。
ただ、そういう経営サポートするにあたって、大企業のように個別にCFOを雇うにはコスト面で現実的ではありません。。そこでリディッシュでは「テクノロジーで、コア業務から経営を進化させる」というミッションを掲げ、まずは財務は数値分析の観点から飲食店支援をプラットフォーム化することを目指しています。
5. リディッシュの事業とAI活用──「CFOテック」という新しい価値
——リディッシュでは具体的にどのようなサービスを提供されているのでしょう?
松隈氏:
大きく分けて、「REDISH税務」「REDISH集客」「REDISH開業」という3つの柱があります。たとえばREDISH税務では、会計士・税理士の知識にAIやクラウド会計を掛け合わせて、飲食店のバックオフィス業務を効率化。データ入力やレポート作成などの定型業務はテクノロジーに任せ、そのぶんコンサルティングなど“より付加価値の高い部分”に注力できるようにしています。
REDISH集客においては、累計400件以上のクラウドファンディングプロジェクトをサポートしてきました。通常、1店舗あたりの支援金額が平均70万円程度のケースが多いところ、私たちが入ることで平均300万円以上の支援獲得に成功している事例もあります。
またREDISH開業では、飲食店特化の融資サポートを提供しています。飲食店が新規開業する際、資金調達がネックになりがちですが、リディッシュが蓄積したデータや会計ノウハウを活かして金融機関との交渉をサポートし、開業までのハードルを下げています。
これらのサービスを象徴的な言葉で「CFOテック」と表現しています。 AIなどのテクノロジーと専門性を組み合わせて、、中小企業や飲食店が高い報酬のCFOを雇わずに、経営者の右腕として財務・税務・マーケティングを総合的かつ安価にサポートできる仕組みを作っています。

6. AI時代における「会計×データ活用」の可能性
——AIと会計士の知識が組み合わさると、どんな未来が見えてくるのでしょうか?
松隈氏:
会計士や税理士が持つ「数字を正しく扱う能力」と、AIの得意とする「膨大なデータ解析や未来予測」が合わさると、経営課題が可視化され、具体的かつ効果的な経営アクションが明確になります。
たとえば売上の変動要因を細かく分析し、「今、このタイミングで新メニューを導入すべき」「ここでスタッフを増やすと売上が伸びる」といった具体的な提案ができるようになるんです。これらは当然専門家が労力をかけて実施すれば、可能な提案ではあるものの、飲食店が支払える報酬ではサービス提供が困難です。 そこで、AIで効率化するとともに専門家でしかできないところを手掛け、リーズナブルな単価で提供することが可能になります。
そして、数字やロジックだけでは片づかない“人間ドラマ”があるのも経営の面白さだと思います。経営者の性格やスタッフのモチベーション、店舗の立地状況など、数値化しにくい要素も考慮しながら、AIと人間の強みを組み合わせて最善策を導く――そこに会計士としての見識が活きるわけです。
結果的に、今までは大企業向けが中心だった“CFO的なサービス”を、中小企業や飲食店でも享受できるようになる。そのインパクトは非常に大きいと感じています。
7. リディッシュで働く魅力とは?
——リディッシュで働くメリットや、どんな方が活躍できそうか教えてください。
松隈氏:
一番の魅力は、「自分の専門スキル×テクノロジー」で、現場の課題をリアルに解決できる点です。飲食店のオーナーさんは毎日大忙しで、なかなか数字を分析する時間がありません。そんな方々に自分の専門スキルを提供して、実際に売上や利益が上がる瞬間を見るのは、やりがいが大きいですよ。
また、AIやクラウド会計のような新しいツールを積極的に導入し、試行錯誤を繰り返すスタートアップ環境でもあるので、「従来の会計業務だけで終わりたくない」「もっと攻めの提案をしたい」という方にはうってつけだと思います。
さらに、会計士や税理士のキャリアパスとして、“CFOテック”という新しい概念のサービスを実現できるのも特徴です。1社に専属で入るのではなく、可能な限り多くの店舗や企業に対して、テクノロジーを最大限活用しながら自分の専門性をフルに発揮する。――新しい働き方に興味のある方にはぜひチャレンジしてほしいですね。
8. AI時代に求められる「新しい働き方」
——会計士も含め、AI時代には「人と人との繋がり」がより重視されるという声もあります。どうお考えですか?
松隈氏:
私もそう思います。AIは数値やロジックの面では非常に優秀ですが、「経営者や現場スタッフの本音を引き出す」といったコミュニケーション面はまだまだ人間にしかできません。そこを上手に補完し合うことで、人間ならではの創造性が活きるわけですよね。
あと大事なのは、「自分がどうありたいか」という軸をしっかり持つこと。投資ファンド時代に学んだのですが、先が見えない中で判断を迫られるほど、“自分なりの哲学やスタンス”がものを言います。
自分は何がしたいのか、どんな社会を作りたいのか――そうした根本の問いがはっきりしていれば、AIがどれだけ進化しても惑わされにくいはずです。
9. 「AIに代替されない人材」になるためのキャリア選択
——「AIに取って代わられる」ことを心配する人も多いですが、どうすれば“AIに代替されない人材”になれるでしょうか?
松隈氏:
「人間にしかできない仕事」とは、やはりクリエイティビティとコミュニケーションが要になると思います。
AIをうまく活用しつつ、「数字の裏にあるストーリーを読み解き、相手に合わせて提案をカスタマイズする」といった芸当は、人間ならではですよね。
これからあらゆる知識がAIによって民主化される中で、何を言うかより誰が言うかが、より重要になってくるはずです。
経営上同じことを提案したとしても、誰が言うかによって価値が大きく変わる。 それは、その人がそれまでに培ってきた人生やキャリアのコンテキストがより重要になってくると思います。 だからこそキャリアの軸が重要になってくると考えています。
転職やキャリア選択の面でいえば、安定や前例だけを求めず、多少リスクがあっても自分の強みを発揮できる環境に飛び込んでみるのも大切だと思います。
定型的な作業にしがみついていてはAIに取って代わられやすい。自分ならではの観点やアイデアで価値を生み出す意欲のある方が、これからの時代は活躍しやすいのではないでしょうか。
10. 目標を定めづらい時代に、会計士はどんな目標を持つべきか
——「やりたいことが見つからない」「将来の目標を立てづらい」という悩みも増えているように思います。
松隈氏:
私もキャリアの初期のころは、明確な目標があったわけではないんですよ。ただ、常に「自分が何を大事にしたいか」「どんな生き方を大事にしたいか」「どういう時に自分が喜びを感じるか」を問い続けてきました。 その中で、「自分の力を活かして人の役に立つ実感を得ることができる」ということは、それらの問いのひとつの方向性だったかと思っています。
具体的な目標として形として見えてきたのはだいぶ後になってからですね。たとえば投資ファンドでは、「企業の成長を見極め、顧客に投資パフォーマンスという明確な結果を返すこと」「また資本市場においてプロの投資家として大きな資金を動かし、社会的意義のある成長企業に資金を提供するという使命にやりがいを感じたし、リディッシュでは「飲食店の場を豊かにする」ことが自分の使命だと強く思うようになった。
要は、日々の仕事を通じて“目の前の人に貢献する”ことに集中していれば、おのずと自分が大切にしたいことがクリアになってくるんじゃないでしょうか。
11. 一緒に未来を作る仲間へ──リディッシュからのメッセージ
——最後に、リディッシュに興味を持った方へのメッセージをお願いします。
松隈氏:
リディッシュでは、まずは飲食店に対して「テクノロジーで、飲食店の場を豊かにし」「飲食店経営を科学して、経営支援サービスをプラットフォーム化する」という目標があります。そしてその先には、飲食業界と同じサービス産業全体にそれを広げ、「すべての「ひと」が仕事で輝ける世界」をビジョンとして実現させていきたいと思っています。 AIと会計の力を掛け合わせることで、今まで中小企業や個人店舗では難しかった高度な経営サポートを安価に提供し経営を豊かにする。――これが私たちの挑戦です。
AI時代というと、どうしても「人間が不要になるのでは?」と不安を抱く方もいますが、むしろ私たちがやりたいのは“人間の強み”を最大化すること。
そのために日々新しいテクノロジーを試し、業界の常識を変えていこうとする人材を求めています。
「会計士として新しいキャリアを切り開きたい」「人とテクノロジーの相乗効果で社会を良くしたい」と思う方は、ぜひ一度、リディッシュの世界を覗いてみてください。私たちと一緒に未来をつくっていきましょう。
採用情報はこちら:https://redish.jp/recruit/
12. おわりに
「会計士はAIに取って代わられるのか?」という疑問を入り口に、松隈氏のキャリアやリディッシュが取り組む飲食業界DXを見てきました。
確かに、AIが定型的な処理を担う割合は増えていくでしょう。しかし、その結果として人間が本当に得意とする「問題解決」や「クリエイティビティ」を発揮する場は、むしろ広がっていくのではないでしょうか。
飲食店は社会にとって欠かせない“場”のひとつ。そこを支えるバックオフィス機能をAI×人間の力で最適化し、さらに「CFOテック」という形で中小企業にも提供していく――リディッシュの挑戦は、多くの会計士にとって“職域の広がり”を実感させる事例です。
これからの時代、会計士や税理士は「数字を読むだけ」の役割にとどまらず、数字の背景にある人間ドラマを理解し、経営をともにデザインする伴走者へと進化していくはず。
もしあなたが「AI時代に自分はどう価値を発揮できるのか?」と悩んでいるなら、こうした新しい取り組みにアンテナを張ってみるのも一つの答えになるでしょう。